冬虫夏草

別名 虫草・冬虫草・夏草冬虫
来源 バッカクキン科の植物、冬虫夏草菌 (Cordyceps sinensis Berk) Sacc の子実体と、その寄主である鱗翅類コウモリ蛾科の昆虫コウモリ蛾 (Hepialus armoricanus Oberthur) の幼虫との複合体。

形態・特徴 冬季に、冬虫夏草菌糸が土中のコウモリ蛾の幼虫の体内に侵入し養分を吸収する。虫体は菌糸充満によって死に至る。夏期には、幼虫虫体の頭部から子実体が伸びてきて土面に露出する。子実体は単生であり、形状は細長い棍棒型。長さは4~11cm。結実部(子実体頭部)は、ややふくらんだ円柱形をなしている。柄部は長さ3~8cm。表面は深褐色で、断面は白色である。柄の付け根の部分は土中にあり、幼虫の頭部とつながっている。虫体は深黄色で、形状は細長い円柱状。長さ3~5cm。20~30の環節があり、腹面に8対の足をもち、第三齢のカイコに相似する。においはかすか、味は淡い。

生息分布 高寒山区、草原、河谷、草むらに多く生息する。分布は、甘粛・青海・四川・雲南各省及びチベット自治区。
採取・加工 夏至の前後、子実体が雪表面に露出し胞子がまだ飛散しないうちに、山に入り採取する。時期が遅いと、雪が溶け雑草が茂って見つけにくくなるうえ、土中の虫体は枯れ萎んでいるので薬用に適さない。採取後、虫体及び子実体を掘り出し、湿気が残っている状態で泥と虫体の皮膜を除き、火であぶって乾かすか天日で干す。または、黄酒を吹きかけて柔らかくし、真つ直ぐに伸ばしてから7~8本づつ赤糸で束ね、それを更に200g 程度づつに束ね(いわゆる把虫草である)、炭火であぶり乾かす。
人工培養 1. 寄主の飼育
虫草コウモリ蛾の飼料を供給するため、自然及び人工法によりムカゴトラノオ を栽培する。更に、ニカメイガ幼虫の人工飼育法を参照に無菌条件のもと、培養基に虫草コウモリ蛾を飼育する。
2. 寄生菌の人工培養
胞子分離法及び組織分離法による菌種を使用する。培養基は、コメ・大豆粉以外に虫草コウモリ蛾及び冬虫夏草成分を詳細に分析した上、最適な培養基を配合する。
3. 人工ワクチン
成虫飼育と菌の培養過程を完了後、虫草菌が虫草コウモリ蛾幼虫に人工的に寄生できる最適期を把握するためワクチン実験を行う。これにより、寄生率を著しく高めることができる。
寄生された虫体の子実体を生長させるため、子実体の最適条件(高山・雪線地帯の温・湿度変化と光照度)を研究しなければならない。
4. 深層培養
発酵液から虫草の有効成分(虫酸・虫素)を得ることを目的とする。

化学成分 虫草酸(cordycepic acid,CHO は1,2,3,4,5 - 四経基環己酸とする)約7%、蛋白質約25%、脂肪約8.4%を含む。更に冬虫夏草酸には、ローマントールが含まれていることが証明されている。その他にも、虫草素(Cordycepin) 及びアミノ酸18種類(アスパラギン酸・トレオニン・セリン・グルタミン酸・プロリン・グリココール・バリン・メチオニン・ロイシン・イソロイシン・リロン・フェニルアラニン・リシン・ヒスタミン・アルギニン・シスチン・システイン・トリブトファン)を含む。有機成分は、麦角ステロイドアルコール・過酸化物・コレステロール・バルチミン酸・ステアリン酸・アデニン・核 ・ウラシルなど。更に十数種類の微量元素も含まれる。
薬理作用 1. 水浸剤には、動物の気管支平骨筋拡張作用及び喘息鎮静作用が顕著にみられる。腸・子宮・心臓に対して抑制作用もみられる。

2. 血管に対する直接な作用は明らかではない。血圧に対しては、静脈注射は僅かな血圧降下がみられる。腹腔及び筋肉注射では一様に如何なる作用もみられない。

3. ラットに対しては、鎮静及び催眠作用がみられ、毒性は極めて低い。

4. 抑菌試験
アルコール侵出液は、1:4000と1:10000濃度の時体外試験で、結核菌HRVに対して明らかな抑制作用をもつ。水煎剤は、肺炎球菌及びある種の病性真菌に対して抑制作用がみられる。虫草素(コルジセビン)には、試験管内において、連鎖球菌・鼻疸バチルス・炭疸バチルス・豚の出血性敗血症バチルス及びブドウ球菌の生長抑制作用がみられる。虫草には、鎮静・抗炎・コレステロール血清降下・血糖値向上作用がみられ、摘出した気管に対しては拡張作用、摘出した回腸に対してはホルモン様刺激作用がみられる。その他にも、ラットの腹腔大食細胞(マクロファージ)の食欲活動向上作用、リンパ細胞の排斥反応抑制作用及び腫瘍に対して抑制・予防作用がみられる。

性味 甘、温、肺・腎臓の強壮

主治用法 肺結核咳嗽・喀血・虚喘・寝汗・遺精・インポテンツ・腰膝病・病後の長期にわたる虚弱。 用量一日4.5~9g。水叉はお湯にて服用。

注:1. 冬虫夏草には、肝臓病・できもの・皮膚病などの治療に効果がある。虫草菌末には、人の鼻咽腫瘍細胞の生長に対して抑制作用がある。虫草菌製剤 には、原発性血小板減少症の治療に効果があり、患者の血小板数値を高める作用がある。臨床症状の改善の総治療効果率は88.33%である。

2. 冬虫夏草は現在人工栽培によって、子実体萌芽抽出が可能となっている。

3. 虫草は現在、人工発酵法を用いて菌糸体を培養している。中国国内ではすでに人工菌糸体を使用している「金水宝」という製剤が広く普及している。

4. 冬虫夏草は、偽品が多く出回っているので注意が必要である。以下主な偽品を紹介する。

1) 亜香棒虫草 (Cordyceps hawkesij Gray)
虫体の形状はカイコに相似しており黒褐色で、体表には横皺を生ずる。子実体結実部は楕円形。茶褐色で湾曲している。安徽・江蘇・湖南・湖北・河南・貴州など各省で、冬虫夏草として売られていることがある。

2) 涼山虫草(Cordyceps liangshanensis Zang, Liu et Hu)
虫体は大きく褐色或いは暗褐色。子実体の多くは単一で、柄は非常に細く曲折している。長さ20~30cm,径1.5~2.5cm。結実部は楕円形或いは棍棒状。主に四川省雷波に産する。

3) 香棒虫草(Cordyceps barnesii Thwaites)
主に山西省垣曲に産する。

4) 蛹草(北虫草) (Cordyceps militaris L ex Fr Link)
寄主は夜蛾科の幼虫で(蛹)になってから菌糸の充満により死に至る。虫体は楕円形の蛹の形を呈している。子実体は蛹の虫体頭部から伸び出てくる。長さ5cm程度。肉質出棍棒状。先端部はややまるく橙黄色或いは朱橙色。柄は細長く円柱形。元来の主産地は吉林省土門嶺。現在は、河北・安徽・広西・雲南各省で出回っている。

5) 地蚕 (Stachy geobonbycs)
地下塊茎は紡錐型を呈しており、両先端部は尖っている。長さ1.5~4cm、径3~7mm。皺があり、ねじまがっている。体表は、黄白色~褐黄色で4~15ほどの環節があり、節上には僅かに状芽痕及び根痕が見て取れる。燐片葉は褐色。質は脆く折れやすい。断面は、平坦であり白色。気無で、味は僅かに甘い。水に浸すと膨張し、結節状を呈しているのがはっきり分かる。広西地区では、地蚕の地下塊茎を虫草及び土中草と偽って売られている。

6) 広東省には、小麦粉・トウモロコシ粉・石膏を使用して、鋳型加工した偽冬虫夏草がある。形状は冬虫夏草と相似している。表面は黄白色で環節は、はっきりしており、断面は一様に整っている。気弱で、長時間噛んでいると粘り気が出てくる。ヨード液につけると、たちまち藍色に変色する。





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